貴重な資料

1回目のジャンボ迷路を開催し大成功をおさめた面々が、迷路の中を走り回る子どもたちの笑顔が忘れられなくて、どのようにすれば地域の行事として毎年継続できるのか、試行錯誤をしながら当時の地域の課題と取り組むようすが記録されています。ジャンボ迷路には素敵なふたりの先生がいました。芦名先生と中谷先生です。このお二人が1994年度教育研究全国集会に「子どもたちをまんなかにした地域づくり」として発表された資料です。少し長いですが原文通り掲載いたします。ぜひ最後までご覧ください。

子どもたちをまんなかにした地域づくり

―子どもまつり「ジャンボ迷路」など―

はじめに

 大阪南部の巨大ベッドタウンである泉北ニュータウンの西原公園で、毎年10月の第3日曜日に「ジャンボ迷路」というユニークな子どもまつりが開催され、子ども・大人あわせて1万人の住民が集い、秋の1日を楽しみます。

 子どもを主人公にしたこの祭りは、9年前、学童保育や堺教祖の分会・親子劇場などの民間団体と原山台連合自治会や子ども会、青少年指導委員会など官製団体が幅広く結集した原山台に児童館を作る会の行事としてスタートしました。子育てにかかわりのある官民のすべての団体が、力を合わせて1万m2の巨大な迷路を1日でつくり片づけます。野外ステージも手づくりです。

 子どもが目をきらきら輝かせて迷路を駆け抜けます。その姿を見て、大人たちが力を合わせることの大切さを実感します。子育てのネットワークは確実に広がりました。

連合自治会すべての活動の原点は、「子どもたちをまん中にした地域づくり」であると位置づけられるようにもなりました。

 この祭りには、桃山台連合自治会や庭代台連合自治会も参加するようになり、一層広がりをもつようになってきています。

 このようなときに、教室20個分もある巨大ゲームセンターを原山台地域につくる話が持ち上がり、2万名の深夜ゲームセンター反対の署名集約、堺市への陳情・市長選候補への公開質問状、業者との交渉、150名の「まちづくりと子育て」集会と対応することができたのも、ネットワークづくりが基礎になっているからだと思います。

このレポートでは3年間、連合自治会長を務めた芦名猛夫の経験を報告します。

  1. 原山台連合自治会のこと

原山台は、大阪府が開発した泉北ニュータウン(人口16万人)のひとつ、泉北高速鉄道「栂・美木多駅」に隣接した地域です。公園や緑道、池もあり、比較的自然に恵まれています。

連合自治会が結成されて16年になり、9つの自治会で構成されています。世帯数は約2500以上もあります。住民の住まい方は、その99パーセント以上が府営、公団などの高層の集合住宅です。

連合自治会のさまざまな課題のひとつに、「こどもを豊かに育てたい」という、青少年健全育成委員会が組織されています。原山台地域の子どもとかかわる団体が参加しています。連合自治会と専門部(子ども会、婦人部、老人会など)、青少年指導員、児童民生委員、学童保育父母会、小中学校とPTAが主なメンバーです。

委員会は年2回会合がもたれますが、一昨年、私が会長をしてすぐの頃です。暗くて重たい会合でした。シンナーやゴミの散乱など、子どもたちとのマイナス面が次々と出されました。そして、子どもたちがあいさつをしないことを何とかしよう、あいさつを進めることから始めようということになりました。さっそく看板を作り、連合自治会と委員会の名前で「いつも笑顔で、あいさつ緑道」と書いて設置することにしました。

ところが、連合自治会のなかで、このあいさつの励行は逆さまではないかという意見が出されました。それは、連合自治会が特に重視した住民どうしの交わり、ふれあいを旺盛に進める活動のなかから出されたのです。

子供があいさつをしないだけでなく、大人もあいさつしていないが、「あいさつ、あいさつ」と力説する人でも、まったく知らない人にあいさつできるのかという意見です。

「あいさつしましょう」と呼びかける看板を立てなければならない地域は、本当に地域と言えるのか、それは恥ずかしいことではないかということです。このことが昨年の委員会でも大きな論議になりました。

子どもたちにあいさつを押し付けるのではなく、子どもも大人もあいさつせずにはいられない地域を、それぞれの立場で取り組んでいこうということになりました。あいさつを呼びかける看板がいらなくなるような地域にしたいということです。

この結論は、シンナー少年の問題にも深く関連しました。

2.シンナー問題に取り組んで

一昨年の暮れ、駅前、商店街センターにシンナー少年が3、40人もたむろしていたのです。深夜の騒音、集合住宅内侵入と破損などの被害が出され、その対策について連合自会で議論になりました。巡回補導をもっと進めようと意見が強く出されました。良心的に「子どもをシンナーから守ろう」という気持ちから出された行動提起です。

しかし巡回補導をして、シンナー少年たちと出会わなければ気落ちするというのは、これも逆さまだということになりました。それに大人たちが地域に悪い子がいないか探し回るという行為が、果たしていいことなのかという疑問がわきました。また、たむろしているシンナー少年のなかに吸引していない者がいて、「やめなさい」 と声をかけると、その子らが暴力的にはむかってきて危険であるという指摘もありました。さらに、ジュース1缶のシンナーを2,000円で販売に来る者がいて、それはある右翼(暴力団)である

という事実が明らかになりました。そこで、徒労に終わり、住民にとって危険な巡回補導はせず、警察へ次のことを文書で要請しました。

一つは、シンナー吸引の通報体制を徹底したので機敏なパトロールを行うこと、二つには、シンナーを販売する者を早急に逮捕することです。

それから1年、シンナー販売者の逮捕は実現されていませんが、警察への通報をこまめにした結果、今ではシンナーを吸う少年をほとんど見かけなくなりました。

シンナーに逃げることのない、生き生きした子どもたちがいっぱいあふれる地域をつくっていくために、もっともっと心を砕こうという住民の合意が形成されました。

3.子どもまつりで人気の「ジャンボ迷路」をつくる

このような住民合意の流れのなかで昨年10月、子どものまつり、第6 「ジャンボ路」が開かれました。駅前の西原公園で、子ともの参加者約4.000名、大人も含めるとやく1万名近くも集まり、大きなにぎわいでした。いまや原山台から泉北ニュータウン全域に広がった子どもたちのための大イベントです。

5年前、「原山台に児童館をつくる会」が、秋の一日青空の下、公園で児童館でやれることをつくってみようと始めました。実行委員会に、原山台連合自治会、桃山台連合自治会をはじめ、参加団体もこの5年で大きく広がりました。

開催の1週間前、宣伝ののぼりを駅前一階に実行委員で取りつけていると、横を通りかかった高校生たちが「ジャンボ迷路か、懐かしいなあ。小学校のとき、よう行った」と話していました。回を重ねるごとに子どもの参加者が増え、今回の取り組みには教育委員会をはじめさまざまな団体からの援助もありました。

子どもたちにとって、このまつりの一番の魅力は、その「ジャンボ迷路」です。広大な公園の樹木の幹にロープを張り、ブルーシートを張って迷路をつくるのです。芝生の広場には杭を打ってつくります。小山があり、坂道もあり、崖もありというようにバラエティに富んだ自然を生かした迷路です。

7つのエリアに分かれ、各エリアにスタンプのコーナーがあり、「ジ」「ャ」「ン」「ポ」

「メ」「イ」「ロ」と1つのスタンプをカードに押すとゴールです。ゴールの出口で一人ひとりに風船がプレゼントされます。普通に行けば、スタートからゴールまで1時間~2時間かかるという本格的な「ジャンボ迷路」です。

今回の実行委員会で難航したのは、杭500本をどうして手に入れるのかです。実行委員会で手分けして心あたりをあたってみて、人とのつながりで無事に手に入れることができました。集団の力のすばらしさを実感しました。

 迷路づくりは、前日の土曜日の午後から7つのエリアごとに実行委員会参加団体で分担して進めます。それがとても楽しいのです。「・・・・うちの子、あほやから、きっとここで迷いよるで」「ここの迷路は、ちょっとむずかしい、いっぺん行ってみて…」と大人たちが楽しみながら、ワイワイ言って作業をするのです。初対面どうしのお父さん、お母さんがすぐに仲良くなってしまいます。以前から知り合いどうしだったようです。秋の事れは早く、投光機の光のもとで最後の仕上げです。

迷路が完成し、手づくりの舞台の上で飲んだ缶ビールの味はとても爽やかです。子どもたちのために流した汗と連帯感でみんな素晴らしい笑顔です。

いよいよ本番。10時開場を前にオープニングの子ども大鼓が響きます。迷路の人口の広場には、「いまか、いまか」と待ち望む子どもたちの長い行列ができています。

あいさつのあと、テープカット、くすだまが破れ、入場です。チケットの受付は民生委員、入場整理と風船わたしは子ども会、会計は老人会、巡回警備は青少年指専員などと細かい役割分担もばっちりです。これも、夏から取り組みはじめた実行委員会での話し合いの成果です。

迷路入口に続くけやき並木道には、ずらりバザーの店が並びます。お好み焼きなど食べものもたくさんあり、大盛況で経過ぎには売り切れる店がいくつもありました。家族で丸くなって昼食をとる微笑ましい光景がたくさん見られました。

迷路のゴール前の広場では、手づくり舞台があり、地域の出し物があります。原山台小学校の太鼓クラブ、老人会カラオケ、手品、空手演武など大きな声援が送られます。「おもしろかった。迷路、お父さんつくったんやね」「ころがって、少しすりむいたけど、全部まわったで」。どの子もみんな声を弾ませています。子どもたちのまぶしい笑顔を見つめる大人たちの笑顔もステキです。そして、大人たちどうしが笑顔の交わりと触れ合いをつくっているのです。よそのおっちゃん、おばちゃんに子どもが話しかけます。よその子もわが子のように可愛いです。素晴らしい雰囲気です。

4.実行委員会に老人会も参加して

「ジャンボ連路」の取り組みの大きな特徴は、実行委員会に老人会が参加していることです。子どものまつりに老人会の参加は珍しいことです。私たちの誇りにしています。手づくり舞台の横に「あそびの広場」があり、学童保育の指導員と老人会が手づくりの遊びを子どもたちに教えています。老人会のおじいさん、おばあさんが竹細工などで孫のような子どもたちと遊んでいる様子は、本当に心あたたまります。

「ジャンボ迷路」の取り組みに妨害や嫌がらせが入ったとき、老人会に助けられたこともあり、ほんとうに心強いかぎりです。

この子どもと老人会との連携は、連合自治会主催の「ふれあい運動会」の競技種目に生かされたり、高齢者を励ます「健老の集い」で、小学生の太鼓と合唱、中学生の演劇とロックバンドなど、子どもたちが大活躍するというように豊かに広がっています。「ジャンボ迷路」は、秋の一日子どもたちどうし、家族そろって地域のたくさんの人たちが楽しめるまつりです。 実行委員会では、「子どもたちをまん中にして地域づくりの輪を広げよう」と呼びかけました。

この思いは、連合自治会すべての活動の土台、原点です。子どもたちが大事にされない地域は、地域と言えません。子どもたちが大事にされないことは、大人たちも大事にされていないのです。

5.住民の自治をよみがえらせ活性化するために

自治会の役員になり手がなく、くじ引きで選んだり、住民にとって自治会活動に対する一定の失望とシラケがあります。しかし、この間の「ジャンボ迷路」の取り組みを重ねて、住民の自治をよみがえらせより活性化するためには、子どもたちを何よりも大切にする取り組みを進めることがそのポイントだという教訓を得ました。

住民は、しらけているのではなく、しらけさせられている。、 脈々とそのエネルギーがあると実感したのは、昨年の盆踊りです。

ここ数年、参加者も減り「盆踊りを止めよう」という声さえありました。その盆踊りが昨年はやぐらも地元でつくり、15張のテントを出して、自治会や子ども会、老人会、サークルなどの夜店、踊りの輪は三重四重にもなるという大盛況ぶりでした。

子どもたちにとってこの原山台は、「ふるさと」になる、私たち大人も子どもの頃の盆踊りを見て大きくなった、その「お返し」 をこの原山台でと訴えて実行委員会をつくりました。主催者の予想をはるかに越え、あまりの人出に2日目は夜の11時まで話長しました。住民どうしの交流もおおいに進みました。

ところで原山台では、駐車場の確保率が悪く、路上に車があふれ、緊急自動車も通れず、子どもたちの通学にも危険です。これは不法迷惑駐車を取り締まるだけでは根本的に解決せず、行政の施策の破綻と言っても過言ではありません。また、図書館や文化会館のある駅前一帯の自転車の駐輪が禁止になり、駐輪場が有料になろうとしています。このような連合自治会の課題を子どもたちの要求として取り組みを強めようとしています。

「学校に行くとき危ない。自動車で右も左も見えません」「お母さんと弟と3人で図書館に行くとき、自転車で行けば300円もいる。無料の自転車置き場を作ってください」というように、子どもの要求で行政へ働きかけることにしています。いま、私たちの住んでいる街を子どもの目の高さで見つめ直すことが大切だと思われます。

さらに、子どもたちをまん中にした地域づくりを進めるにあたって、子育てまっ最中のお母さん、お父さんに元気になってもらおうと、今年2月23日、第1回子育てネットワーク集会を連合自治会と青少年健全育成委員会の主催で開きました。

テーマは「どの子もみんなかしこくなりたい」、つまり学力問題を取り上げました。記念講演と4つの分科金をもち、今までの実績の3倍の160名が集まりました。参加者の面々を見ると、「ジャンボ迷路」や踊りのときに出会った懐かしい顔がたくさんありました。連合自治会の1年最後の取り組みで、大きな成功をおきめました。今も感激の余韻が残っています。

それから、3月の小中学校卒業式の直後、子どもたちが太鼓のお別れ発表会のビラを配布しました。呼びかけにはこう書いています。

「今年は、数多くのオリジナル作品をつくり発表してきました。そして、たくさんの方の拍手とたくさんの思い出をつくりました。太鼓クラブのなかに引っ越す人がいるので”お別れ発表会をしよう”という声が上がりましたので、発表させていただきたいと思います。引っ越してつらいことやさびしくなってもこの発表会のことを思い出してガンバッていってほしいと思います。下記のように行いますので、ぜひとも見にきてください」。子どもたちのやさしさがしみじみと伝わってきます。

発表会当日、ダイエーと商店街の広場にまっ先に駆けつけたのは老人会です。中学校の生徒会も友情出演です。肌寒いなか、大きな拍手が起こります。

子どもたちの親や自由会役員をはじめ買い物の人たちで大きな輪ができます。小さな発表会ですが、原山台連合自治会の今のあり方を示しているようでした。

最後に、悲しい思いをしたり、さびしがっている子ども、真に愛されていない子どもが残念ながらまだまだたくさんいます。子どもをないがしろにする風潮も蔓延しています。だからこそ、どんな子どもたちも手厚く守ってやる時です。そのために、連合自治会をはじめ多くの住民、親たち、学校と教師たちが今こそさまざまな立場を越えて手を結ぶときです。

とりわけ、子どもたちを蝕む非行文化、正義や誠実さを嘲笑する退廃文化から子どもを守るただ一つの盾は、子どもの育つ地域づくりに取り組む大人たちの輪こそだと思えてなりません。そして、子どもたちをまん中に手を結んだネットワークの輪を今年もさらに大きく広げていきたいと思います。そのことによって、子どもも住民も主人公となる街ができ、ほんとうの住民自治が生み出されるのです。子育てと住民自治は切り離すことができないのです。今年も声かけ合ってがんばります。